製作年:2017年
製作国:日本
配給:東京テアトル、リトルモア
監督:石井裕也
原作:最果タヒ
脚本:石井裕也
企画:孫家邦、菊地美世志
キャスト:石橋静河、池松壮亮、松田龍平、市川実日子、田中哲司 等
(以上、映画.comより)
(あらすじ)
舞台は現代の東京。看護師をしながら夜はガールズバーで働く美香(石橋静河)は、孤独を感じながら煮え切らない気持ちで日々を過ごしていた。一方工事現場で日雇いで働く慎二は、希望を求めてひたむきに日々を過ごしていた。偶然が重なり、二人の人生に接点が生まれ・・・
78点/100点
最果タヒの同名詩集を元に制作された恋愛映画。東京で生きる若者達の閉塞感や孤独感の中で、主演二人の周りの人物の様子を交えつつ、恋愛模様を描いた作品。様々な映画賞を受賞した。
この映画から終始滲み出ているのは、「東京の闇」である。何故ここまで東京の若者達の事情を暗く描写したかったのかは私にはわからない。そもそも、東京ってこんなところだったっけ?人々ってこんなものだったっけ?と、様々なシーンで疑問に思ってしまう。実際のものとの乖離というか。ただ、その様子については実にリアリティや説得力があり、本当に東京はこの映画のように救いがない場所なのだ、と思いこまされてしまう。もちろんこの映画の登場人物たちのような事で悩んでいる、苦しんでいる人々はいくらでもいるだろう。とにかく、この映画では若者達の苦しみというものから何かを見出したい、そのようなテーマだということはわかる。語りたいテーマのために現実社会を少し歪めて、極端に演出しているのだろう。
上記のこともあるが、この映画では私は共感できない事がとても多かった。何より、主役の二人の考え方が私には全く理解ができなかったのだ。とにかく根性がねじ曲がっていてネガティブな考え方しかできない美香、ポジティブだが行動が意味不明で、ひたすら非効率的な生き方をする慎二。この二人の対比が重要なのだろうが、極端すぎてどちらのキャラにも嫌悪を感じてしまうのだ。また、気になる事としてそもそも作中に喫煙者が多いということ。鬱屈した雰囲気作りの一環かもしれないが、なんだろう。ここまで喫煙シーンを前面に押し出す必要はあったのだろうか。こういう表現は邦画らしさでもあるのだろうが。自分が非喫煙者だからかもしれないが、喫煙シーンがここまで多いという事は個人的には好かない。
といってもこの映画、全体的に描写や演技、実によくできている(ついでに言うと、セリフ回しは個人的には突っ込みどころが多い)。池松壮亮を主演男優として起用したのもまさにピッタリである。あまり華やかすぎず、かといって地味すぎるわけでもないこの俳優は、実に細かい感情の機微を表現するのが上手い。また、石橋静河という女優も実にいい味を出している。「こんな人いるよな」という感じの偏屈な疲れた女性を実に上手く演じているのだ。
この作品を観てほしい人は、やはり現代に生きる若者か。勿論中年の方でもよい。「何か物足りない」「社会に漠然とした不安・文句がある」「自分は他の人と違う」「自分は変だ」このように普段から悶々とした気持ちを抱えている人はきっと、特に共感する事があるだろう。また、舞台が東京なので首都圏によく行く人には馴染みある風景が多くそういった楽しみ方もあるだろう。だが上に書いたように、実際の東京の風景や人々と照らし合わせた時に、違和感に感じる事は多い。それらを許容した上で楽しみたい映画だ。
色々書いてしまったが、本当にうまく「邦画らしさ」が出ている映画だと思う。ハリウッド映画では恐らく味わえないだろう、この独特の雰囲気は映画ファンなら一度観るべきだし、二度三度だって観る価値もある、実に深い作品だ。